“くろしお”

院長 辻中 まさたけ

連休明けにボクの大事な方がまた何処かへ旅たってしまった。10年以上にわたって遠くから来てくれていた患者さんの訃報が、家族からのご連絡でわかった。診察までの長い待ち時間に文句ひとつ言わず、診察室まで聞こえる大きなあくびを時々して、診察が終了すると、笑顔で「ありがとうございました!」と元気よく出て行く。そして駐車場に留めてある車の中で、お茶を飲みながら愛妻弁当を食べていく。今年の正月にも外で子供と雪かきをしていたら、いきなりお孫さんを連れてやってきてくれたのに・・。先月まで来られていたのに、あの時が今生の最後の別れになろうとは・・・想像さえしなかった!

彼の家へ行き、生前愛用の携帯電話と時計の置いてある遺影を前にすると、むしょうに涙が出てしかたがなかった。ボクは初めて彼の家へ行き家の場所がすぐにはわからなかった、一方で彼は10年もうちに来てくれていたのか、どんな道筋でうちまで来てくれていたのだろうか、と思った。

医者と患者の壁、そして、一期一会の大切さを痛感した。

彼の趣味のひとつに写真撮影があり、一枚のおもしろい写真を持ってきてくれたことがある。そしてその裏には手書きでこう書いてあった。

長崎佐世保が故郷
 魚雷吹くくじら
 僕の名前“くろしお”

あの世があったならば、医者と患者ではなく、また逢おうね。そして、もっといっぱい趣味のはなしをしようね。

ご冥福をお祈りいたします。

 
 
 
 
 
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