高級フランス料理 その2

院長 辻中 まさたけ

妻がパワーウィンドウを下したことによって、湿ってはいるが、真夏のわりに意外なほどに涼しい地下駐車場のコンクリート臭を持つ空気によって智は浅い眠りから退屈な現実に呼び戻された。 コンクリート臭を嗅ぐと、どうも体中がむず痒い感じがして爪を噛む癖がでる。小学生時代はイライラするとよく爪を噛み爪先から血を流し、 後で痛くなりバンドエイドを器用に貼って友人に驚かれていた。また、手の指だけでは物足らず、足の爪もよく噛んでいた為、身体は硬い方なのに今でも股関節だけは柔らかい。 さすがに大人になった今では左手中指の爪を少し噛むだけで落ち着くようになった。 高級フランス料理のお店はさすがに高いビルの最上階にある。 お店に入ると夫婦は残念なことに眼下を一望できる窓際からとても離れた、良く云えば落ち着いた、悪く言えば最上階である必要のない凡庸な席に案内された。 そう云えば以前に夫婦で台湾を旅行した際に超高層ビルである台北101の85階にある中華レストランに行った時に、最初は景色が望めない席に案内されたが料理を高いコースで注文すると、 いきなり窓際の特等席に勝手に移動してきた。今回の席がつまらないところになったのもクレジットカードの無料食事券だからだろうか、考えながら久しぶりに爪を深く噛み過ぎたみたいである、 左手中指を智は見るとうっすらと血が滲みだしてきていた。 つづく。 平成25年10月15日


 
 
 

 平成25年10月15日
 
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